昨年秋、郡上八幡でアーティストインレジデンスを行なった小澤香織。これまでも、不要になったものを収集し作品にしてきたが、郡上でもまちの人々から不要になった造花を集い、元駄菓子屋の民家でインスタレーションを展開した。
搬出後、アトリエの片隅、袋に無造作に詰められた造花を目の端に認める日々。当然といえば当然なのだが、いつまでも変わることなく全ての花は咲き誇り続けている。おびただしい数の花がひしめき咲き絡む、まるで生命力の塊。そしてまた、強烈に死も感じざるをえなかった。それは異形だった。
「1つひとつの花を取り出す際、自然の花を摘んでいるような感覚すら覚えた」と作家。「制作はそこにないはずの〝生〟と、そこにある〝死〟を往来する不思議な旅だった」とも口にする。
雌しべと雄しべが球体を成す完璧なる受粉体。対称に配された花弁や萼の織りなす万華鏡。白く塗り込められ骨にも似た蘭の花。しかしどれもが永遠に、新たな生につながることはない。静かなまま、紛い物として命を模す。
あえて感情を奥底に潜ませ、エッセンスの溶け出した上澄みをすくい上げる。これまで混沌としていた世界に理が介入する。真夏の陽射しを忘れさせるような風が吹く。すぅっと胸のすく香りがする、と同時にすべてが目の中で淡い光を放ちはじめる。すべてが。