水の滴りや鳥のさえずりまで聴こえてきそうな、苔むした世界。長い歴史とともに生きてきた屋久杉が、倒れ枯れている。しかし、ただの終焉ではない。幹の割れ目に目をやると芽吹きが…命がつながっていく、再生の風景だ。
緻密な技巧で彫り出され、どっしりとした台座部分がよりスケール感を際立たせる「鳥の視点」。地球の一部を、まるでケーキでも切り分けるように表現したこのシリーズは、紛れもなく杉浦誠の代表作といえるだろう。
併せて登場するのは、仕事の合間、おじさん(中の人はおじさんという設定らしい)の疲れた姿を象った、着ぐるみシリーズ。中々モチーフにしずらいものでもあるが、そこには、うらさみしさと同時に、彼らにエールを送る作家の温かな視線が感じられる。
かと思えば、花柄を纏い花の種を積み込んだミサイルや、ピタリと時間が止まったような神話的世界、石を取り入れた抽象作品、小さくユーモラスな動物たち…時間が限られる中、自分の行く先を考えながら淡々と制作にあたる。「あれもやりたい、これもやりたい、まだまだ色々と模索中です」。さまざまなテイストの作品を通して、「今」の杉浦誠が見えてくるだろう。