田島 征三

「森の小径」を辿って

2018.1.20 - 2018.2.24

 瀬戸内の大島に「森の小径」という庭をつくっている。大島は100年近くもの間、ハンセン病者が収容されてきた場所だ。病と差別、そして国家により人権や尊厳、名前すら取り上げられて島に閉じ込められ続けてきた。今も大島には、60人ほどの入所者が住まわれている。
 「森の小径」とはいえ、植物はまだ森を形成するほどではない。だが、島に通う美容師 Iさんは「もうずいぶんとたくさんの方がここを訪れていますよ」と口にする。確かに車椅子で介護者と散歩している姿を見かけることもあるが、ほんの2、3人にすぎない。「たくさん、だなんて」と返すと、「いいえ」と Iさん。納骨堂から魂が降りてきて、森で楽しそうに遊んでいるというのだ。オカルト的な話は好きではないが、故郷にも帰れず苦しみを背負って亡くなっていった方々が、この小さな森で、小鳥や虫や昔から島で愛されてきたヤマツツジなどと愉しく遊んでくれているとしたら、空想だとしてもうれしいことだ。
 雑草や虫たちを排除しない芸術作品こそが、厳しい人生を終えた魂をも包みこめるのではないか。そしてこの島の人々を差別し続けてきたぼくたちにとっても、生きものの気配のする芸術が必要なのだ。
 数年後には、植物が「森」といえるほどに育ち、ヤマツツジも美しく咲き誇っているだろう。島の人たちと島外から訪れる人々に、生きものとともにいるよろこびと安らぎを感じてもらえれば、とぼくは願っている。

田島 征三

WORKS

PROFILE

略歴
1940 大阪府生まれ
2011-18 日中韓平和絵本プロジェクトに尽力
2013-19 香川県大島のハンセン病療養所にて空間詩『青空水族館』『森の小径』『Nさんの人生』制作
受賞歴
2021 絵本『つかまえた』/産経児童出版文化賞 美術賞、ENEOS児童文化賞 受賞
2019 第42回巖谷小波文芸賞 受賞
2018 伊藤忠 新聞広告イラストレーション/ADC賞 受賞、日経広告賞 大賞
2010 絵本『オオカミのおうさま』/第15回日本絵本賞 受賞
個展
2022 田島征三アートのぼうけん/刈谷市美術館/刈谷
2011 田島征三の大地/ふくやま美術館/福山
2009 鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館/越後妻有 大地の芸術祭/十日町
2008 田島征三展 -絵本の大地・木の実の夢-/平塚市美術館/平塚
グループ展
2006 激しく創った!! -田島征彦と田島征三の半世紀-/高知県立美術館/高知
2005 海・山・のんびりアート 田島征三・谷川晃一・宮迫千鶴三人展/練馬区立美術館/東京

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