瀬戸内の大島に「森の小径」という庭をつくっている。大島は100年近くもの間、ハンセン病者が収容されてきた場所だ。病と差別、そして国家により人権や尊厳、名前すら取り上げられて島に閉じ込められ続けてきた。今も大島には、60人ほどの入所者が住まわれている。
「森の小径」とはいえ、植物はまだ森を形成するほどではない。だが、島に通う美容師 Iさんは「もうずいぶんとたくさんの方がここを訪れていますよ」と口にする。確かに車椅子で介護者と散歩している姿を見かけることもあるが、ほんの2、3人にすぎない。「たくさん、だなんて」と返すと、「いいえ」と Iさん。納骨堂から魂が降りてきて、森で楽しそうに遊んでいるというのだ。オカルト的な話は好きではないが、故郷にも帰れず苦しみを背負って亡くなっていった方々が、この小さな森で、小鳥や虫や昔から島で愛されてきたヤマツツジなどと愉しく遊んでくれているとしたら、空想だとしてもうれしいことだ。
雑草や虫たちを排除しない芸術作品こそが、厳しい人生を終えた魂をも包みこめるのではないか。そしてこの島の人々を差別し続けてきたぼくたちにとっても、生きものの気配のする芸術が必要なのだ。
数年後には、植物が「森」といえるほどに育ち、ヤマツツジも美しく咲き誇っているだろう。島の人たちと島外から訪れる人々に、生きものとともにいるよろこびと安らぎを感じてもらえれば、とぼくは願っている。
田島 征三