かつて日本画を学んでいたが現在、絵は描いていない。もちろん描くことは好きなのだが、素材の道理に自分を時間を合わせなければならない、単にそれを楽しめるタイプではなかったからだ。以来、菓子の包み紙や服のタグ、人から貰ったメモであったり、街中で拾った紙くず……専門的な“遠くにあるもの”ではなく、身の回りで見つかる“近しいもの”を素材にしてきた。道具にしても、キャンバスの木枠を彫り込んだ 〈飾り〉も彫刻刀ではなく極普通のカッターで削り出しているそうだ。
しばらく制作していなかった〈地面を壁を歩く〉に見るような半立体的なコラージュ作品は2019年、ブラジルに渡り再開された。異国の地、サンパウロのどこにいるかも曖昧なままに生活する中、地図を検索し否応なく街を俯瞰する機会が増えたのがきっかけかもしれないという。対象となる何かではなく、つくるのは空間か。タイトルの通り、心のままぶらり歩いてゆくように手を動かす。「つくっているときは近く、できてしまえば遠い」とは小栗の言葉だが、完成したものを眺める時、己が迷い込んだはずの、この世ならざる路地が余りに易く俯瞰できてしまうからだろう。
拾ったら、直ぐにつくることもできる。立体にするため先ず一つ折り、そのまましばらく傍らに放置しておくことも自由だ。近く、遠くの手仕事はじめ。そう、散歩に出かけようと腰をあげるまで。