身の回りのもの、それはお気に入りに限ってはいない。「家の庭に生えている全然抜けない大嫌いな雑草」でさえもモチーフになる。ネガティブな感情を抱く対象すら石田典子にとっては、心を動かすもののひとつであるということだろう。
元より版を切り分けるなどの加工を施すことも多かった。そうして刷った後の版の美しさに、思わずはっとさせられる経験も重ねてきた。それならばいっそ二次元にこだわらず、それ自体をみせられないか。版を立体として捉えてみてはどうかと考えるようになった。
土に植わり頭から植物を生やす女たち。闇のシンボルである赤い星の下で踊る人。そういえば、すっかり平面から立ち上がり、スノードームに収まっている taneo も踊っているようだ。どんな約束事も通じない時刻。漆黒がひたりひたり流れ込み、胸の底に水たまりをつくる。ふと、不安定なままで赦される心地よさを感じる。
あちらとこちら。全きに分たれた境界、決して開くことのない窓。隔絶。彼方の住人の好物は美しいものだから、こちらの世界からは遮断しておかないといけないとでもいうように。わたしたちは訪問者となり覗き込む。窓のむこうがわに閉じ込められたパラレルワールドを。