庭に咲く花、仕事場の周りにある森、ペルーの博物館で出会った布のパターン、イスタンブール土産の割れた陶器マグネット、工房の汚れたテクスチャー、工場と道路を隔てる風に吹かれるまま斜めに倒れた〝便宜上生やされている〟木…カメラロールの中に入っている身の回りの風景は、自分の中でひっかかりがあってシャッターを切っているには違いないが、他人からすればどうでもいいようなものかもしれない。それらがすっかりストーリー性や属性、感情を失った頃、改めて己の手で扱えるようになる。漂白されたフォルムを集め、組み立て重ねていく。
はっきりとしていることなど一つもない。揺らぎながら、抽象と具象の間を往来しながら、自分でも無意識のうちに風景を紡いでいる。そこに立ち上がる新しい物語。ささやかでありながら「どこでもない」ではなく「どこにもない」物語を。