1973年、アメリカ軍がベトナム戦争から全面撤退した年。大学生だった彼は、当時のレートで約100ドルの所持金とカメラを持ち、初めてアメリカに渡った。長距離バス、グレイハウンドの21日乗り放題切符を用いて、各地を撮影するためだ。
サンフランシスコに降り立ち、ソルトレイク、シャイアン、デンバー、シカゴ、メンフィス、ニューオリンズ、19日目にロサンゼルスに辿り着く。自動販売機の1ドルのサンドイッチで空腹を凌ぎ、キリスト教青年会、いわゆるYMCAの1ドル宿や深夜バスで車中泊という、若いからこそ可能な旅でもあった。Tシャツから、すぐにダッフルコートを着込まなければならない気温差に、アメリカの広大さも感じた。
この旅行での経験が、自身の人生を大きく変えた。1992年、再び、アメリカへ。20年前に撮りきれなかったものを捉えるために。以来、機会ある毎に渡米しては、シャッターを切ってきた。旅はひとりがいい。おもむくままに各地を周り撮影された作品は、ロードムービーのようでもある。2012年から毎年、福島県の浪江町に入り風景を収め続けるのも、彼にとって残しておかなければならない、痛切な〝オン・ザ・ロード〟であるからだろう。
今展では、1973年、1992年、2017年のアメリカ、2018年の浪江と異なった時間、土地の作品が並べられる。かつてのアメリカでは人種差別が色濃く残っていたし、しばしば、よそ者であることを肌で感じさせられた。しかし、人や街とは違い、道は誰をも受け入れる。そうして、いずこかへ導いてくれる。作品を観るあなたも、また同じく。