物の怪は人間に憑き苦しめ病気にさせ、死に至らせる霊や妖怪、変化を指す。「魅」も一文字で〝もののけ〟と読むのだが〝魅入る〟の意味を持つ。同じく〝もののけ〟と読む「魍」「魎」も化け物や妖怪のみならず山や川、木や石に宿る精も指す。その「精」も〝もののけ〟と読むと聞けば容易く、物言わぬものに魂の入った状態を想起させる。
鹿と化身した神々は荘厳で超自然的な佇まいでそこに在る。長い歳月を経て付喪神となった道具たちがゆらり現れ、果物からは臓腑がどろりと零れる。菓子と動物のキマイラを生み出す傍ら、猫にそうするように様々ないきものに鈴をつけて愛玩する。物の怪であり、魍、魎、精、フランソワが描くそれらは恐ろしいだけでなく、どこか剽軽で滑稽さを纏い、またグロテスクな己の姿を静かに微笑みながら曝す。
この季節、生身のいきものどもの気がそぞろであるならば、目に見えぬものたちも大人しくしている道理はない。桜舞う卯月の宵、すべてを顕にする月影の下、蠢くもののけたちの宴。