クラシックの調べにのり、指にインクや絵具をつけ紙に直接ドローイングをする。今年に入ってはじめた試みだ。たまたま、車中でモーツァルトの「フルートと管楽器のためのアンダンテ」を耳にした時、頭上に、浮かび動く線が見えた。白い紙を見ていても何ひとつ描けないのに、曲が流れるとラインが踊る。1枚にかける時間はほんの数秒。クロッキー帳のページを次々と繰り、感じ取った形を留めていく。
今一瞬のものを形にする呼吸、生きている線とそうでない線があるように、生きた形もあるはずだと考える。また作品自体も生き物として捉え、内から内へ蠢き行き交い呼吸しているような彫刻を目指す。定期的にドローイングを続けるうちに彫刻作品も変化していることに気づいた。つくり込む部分、逃す部分、新たなリズムを感じている。
描くことを避けてきた自分が、こうして素直な心持ちで平面に向かっている状況に驚きもする。だが、型にはまりすぎて動けないよりも、その時々に感じたことを表現する中で、違った自分が見つかる「変化」を楽しみもしている。これが2023年現在の湯浅未浦なのだ、と。